トンネル照明についての技術
技術資料・関連法規
トンネル照明
トンネル照明は、一般道路と異なり、昼間に照明を必要とすることや、周囲を側壁・天井で囲まれているため、走行上特に注意を要するなどの特殊性があります。したがって、トンネルに設置する照明施設は、設計速度・交通量・地形などに応じて、最適なものを選ばなければなりません。日本ではトンネル照明の設計基準として、「道路照明施設設置基準・同解説」(社団法人、日本道路協会、平成19年10月)があります。
トンネル照明の必要性
- 交通輸送機能の保持
- トンネル内での運転機能低下の軽減
- トンネル出入口部における運転者の平衡状態の維持
- トンネル内の空気汚濁による交通障害の防止
- トンネル内での事故防止
トンネル照明の構成
トンネル照明は、以下の6種類の照明によって、構成されます。
- 基本照明
- 入口部照明
- 出口部照明
- 特殊構造部の照明
- 停電時用照明
- 接続道路の照明
図1 トンネル照明の構成
基本照明
1.平均路面輝度
トンネル内の平均路面輝度は、設計速度に応じて表1の値を標準とします。
また、交通量やトンネル延長により、平均路面輝度は表2の値まで低減出来ます。壁面輝度は路上からの高さ1mまでの範囲を対象とし、トンネルの構造に応じて表3の値を標準とします。
表1 基本照明の平均路面輝度
設計速度(km/h) | 平均路面輝度 (cd/m2) |
---|---|
100 | 9.0 |
80 | 4.5 |
70 | 3.2 |
60 | 2.3 |
50 | 1.9 |
40以下 | 1.5 |
表2 平均路面輝度の低減
低減条件 | 低減の内容 |
---|---|
トンネル1本あたりの日交通量が10,000台/日未満 | 50%以上 |
走行時間が135秒以上の延長を持つトンネル | 走行時間が135秒以上の部分を65%以上 |
表3 壁面輝度
トンネルの構造 | 壁面輝度(cd/m2) |
---|---|
内装が無しの場合 | 路面輝度の0.6倍 |
内装が有りの場合 | 路面輝度と同程度 |
内装が有り、白色系の舗装で比較的路肩が狭く、壁面が障害物の背景となるような場合 | 路面輝度の1.5倍 |
2.輝度均斉度
総合均斉度
総合均斉度Uoは次式で表され、 0.4以上を原則とします。
ここに、Lmin:車道最小部分輝度(cd/m2)
Lr:車道平均路面輝度(cd/m2)
車線軸均斉度
車線軸均斉度Uℓは次式で表され、 0.6以上とすることが望ましいとされています。
ここに、Lmin(ℓ):車線中心線上の最小部分輝度(cd/m2)
Lmax(ℓ):車線中心線上の最大部分輝度(cd/m2)
3.グレア
障害物の視認性は、視機能低下グレアとも関係があり、相対閾値増加によって表されます。なお、トンネル照明における相対閾値増加は15%以下を原則とします。
灯具の配置
1.灯具の取付高さ
路面の輝度分布の均一性を出来るだけ良好に保つと同時に、灯具のグレアによる影響をできるだけ少なくするため、灯具の取付高さHは原則として4~5 m程度以上とします。
2.取付間隔・取付角度
平均路面輝度、輝度均斉度、視機能低下グレア、および誘導性の規定を満たし、保守の難易、経済性なども考慮して最適なものを選択します。
3.灯具の配列
灯具の配列には、向合せ配列、千鳥配列、中央配列、片側配列の4種類が用いられます。
灯具の配列は各配列の特徴を考慮するとともに、トンネル断面形状、設計速度、交通量、運用のほか、付属設備や維持管理などを勘案のうえ選定するものとします。
4.灯具間隔(ちらつき)
表4における取付間隔は走行時間が30秒以下の短いトンネルや、入口照明区間では考慮する必要はありません。
表4 ちらつき防止のために避けるべき灯具間隔
設計速度(km/h) | 40 | 50 | 60 | 70 | 80 | 100 |
---|---|---|---|---|---|---|
避けるべき取付間隔(m) | 0.6~2.2 | 0.8~2.8 | 0.9~3.3 | 1.1~3.9 | 1.2~4.4 | 1.5~5.6 |
入口部照明
1.入口部照明の構成
入口部照明は、図2に示すように、境界部、移行部、緩和部から構成されます。
- L1:境界部の路面輝度(cd/m2)
- L2:移行部最終点の路面輝度(cd/m2)
- L3:基本照明の平均路面輝度(cd/m2)
- ℓ1:境界部の長さ(m)
- ℓ2:移行部の長さ(m)
- ℓ3:緩和部の長さ(m)
- ℓ4:入口部照明の長さ(m)
図2 入口部照明の構成
2.入口部照明各部の路面輝度と長さ
日交通量が10,000台/日未満の場合は、表5に示す路面輝度の50%以上の値にすることができます。壁面輝度は「基本照明1.平均路面輝度」に記述した壁面輝度に準ずるものとします。
(注)
- L11は境界部、L2は移行部終点、L3は緩和部終点(基本照明)の路面輝度、ℓ1は境界部、ℓ2は移行部、ℓ3は緩和部、ℓ4は入口部照明の長さ(ℓ1+ℓ2+ℓ3)
- 野外輝度が本表と異なる場合の路面輝度L1、L2は野外輝度に比例して設定するものとします。緩和部の長さℓ3は次式により算出します。
ℓ3=(log10L2-log10L3)・V/0.55 (m)
ただし、Vは設計速度(km/h) - 通常のトンネルでは、自然光の入射を考慮してトンネル入口より概ね10mの地点より人工照明を開始します。
- 対面交通の場合は、両入口それぞれについて本表を適用します。短いトンネルで両入口の入口部照明区間が重なる場合は、路面輝度の高い方の値を採用するものとします。
表5 入口部照明(野外輝度3,300 cd/m2の場合)
設計速度(km/h) | 路面輝度(cd/m2) | 長さ(m) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
L1 | L2 | L3 | ℓ1 | ℓ2 | ℓ3 | ℓ4 | |
100 | 95 | 47 | 9.0 | 55 | 150 | 135 | 340 |
80 | 83 | 46 | 4.5 | 40 | 100 | 150 | 290 |
70 | 70 | 40 | 3.2 | 30 | 80 | 140 | 250 |
60 | 58 | 35 | 2.3 | 25 | 65 | 130 | 220 |
50 | 41 | 26 | 1.9 | 20 | 50 | 105 | 175 |
40 | 29 | 20 | 1.5 | 15 | 30 | 85 | 130 |
3.入口照明の調節
入口部照明は、野外輝度に応じて所要の照明レベルが決定されます。このため、野外輝度が変化した場合にはそれに応じてトンネル内の路面輝度を調光することができます。通常は、入口部照明の調光段階を2または4段階とし、野外輝度の設定値に対する比率に応じて所定の路面輝度の比率となるよう照明施設を制御します。設計速度が高いトンネルで入口部照明のレベルに応じた調光段階を4段階にした例を表6に、設計速度が低いトンネルで調光段階を2段階にした例を表7に示します。
表6 入口部照明の調光(4段階の例)
野外輝度の設定値に対する比率 | 路面輝度の比率 |
---|---|
75%以上 | 100% |
50%以上~75%未満 | 75%以上 |
25%以上~50%未満 | 50%以上 |
5%以上~25%未満 | 25%以上 |
表7 入口部照明の調光(2段階の例)
野外輝度の設定値に対する比率 | 路面輝度の比率 |
---|---|
50%以上 | 100% |
5%以上~50%未満 | 50%以上 |
4.連続するトンネルの入口部照明
二つのトンネルが連続して存在する場合、この間の野外輝度は先行トンネルの出口に近づくとともに上昇し、出口で最大となった後、後続トンネルの入口に接近するとともに徐々に低下します。坑口間距離が設計速度に対応した視距よりも短い場合には、先行トンネルの出口における野外輝度が、単独で存在するトンネルにおける視距に相当する地点の野外輝度よりも低くなるため、その比だけ後続トンネルの入口部照明の路面輝度を低減することができます。
1)野外輝度
後続トンネルの野外輝度は、先行トンネルの存在しない状態、すなわち後続トンネルが単独で存在する状態を想定して求めます。
2)境界部の路面輝度
後続トンネルの野外輝度は、先行トンネルの出口での野外輝度が最大となり、視距手前の地点から求める先行トンネルが存在しない状態での野外輝度より低くなります。
境界部の路面輝度L1’は、単独で存在するトンネルの境界部の路面輝度L1と表8に示す坑口間距離に対応した入口部照明の低減係数f1から次式により算出する。
3)入口部照明各部の路面輝度と長さ
後続トンネルの入口部照明各部の路面輝度と長さは、「入口部照明 2.入口部照明各部の路面輝度と長さ」表5により設定します。したがって、移行部および緩和部の路面輝度の低減係数もf1となります。
表8 後続トンネルの入口部照明の低減係数f1
坑口間距離d(m) | 設計速度V (km/h) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
100 | 80 | 70 | 60 | 50 | 40 | |
d≦10 | 0.30 | 0.35 | 0.35 | 0.40 | 0.40 | 0.45 |
10<d≦15 | 0.40 | 0.45 | 0.50 | 0.50 | 0.55 | 0.60 |
15<d≦20 | 0.50 | 0.55 | 0.55 | 0.60 | 0.65 | 0.75 |
20<d≦35 | 0.60 | 0.70 | 0.75 | 0.75 | 0.85 | 0.95 |
35<d≦50 | 0.70 | 0.80 | 0.85 | 0.90 | 1.00 | 1.00 |
50<d≦70 | 0.80 | 0.90 | 1.00 | 1.00 | ||
70<d≦100 | 0.90 | 1.00 | ||||
100<d | 1.00 |
5.出口照明の設置
以下の条件が重なる場合、または、その他特に必要と考えられる場合は、出口付近の野外輝度の12%の値の鉛直面照度で、80m前後の長さにわたり、出口部照明を設けることがよいとされています。
- 設計速度が80km/h以上
- 出口部野外輝度が5,000cd/m2以上
- トンネル延長が400m以上
停電時用照明
トンネル内で突然停電に遭遇すると、運転者は心理的動揺をきたし、走行上きわめて危険な状態におちいります。全長200m以上のトンネルには、停電直後から下記に示す通常の電源以外の電源によって照明することが必要となります。(全長200m以下の短いトンネルでも、出口の見えないようなトンネルでは、設置することが望まれます。)
一般に停電時用照明は基本照明の一部を兼用します。
停電時用照明の設置
停電時用照明の電源設備には、無停電電源装置と予備発電設備の2種類があります。
無停電電源装置による停電時用照明
この方式には次の二つがあります。
- 受配電盤を設置した場所に蓄電池を設置し、インバータによって変換した交流電源をトンネル内の一部の灯具に供給して、停電時、自動的に点灯させます。
- トンネル内の一部の灯具にそれぞれ蓄電池とインバータを内蔵させ、停電時に自動的に点灯させます。いずれも、無停電電源装置により照明する場合の照明レベルは、基本照明の概ね1/8以上の明るさを確保することが望まれます。
予備発電設備による停電時用照明
予備発電設備(自家発電設備)により電源供給する場合の照明レベルは、基本照明の概ね1/4以上の明るさを確保することが望まれます。
なお、停電後に予備発電設備が正規電圧を発生するまでの間は、無停電電源装置によって電源供給する方式によるものとします。
光源の選定
トンネル照明用の光源は、低圧ナトリウムランプ・高圧ナトリウムランプ・蛍光ランプ・セラミックメタルハライドランプのうちから効率・寿命・光色・設置場所の環境条件・経済性・見え方・快適性などを考慮して選定します。また、光源の種類は単一光源に限らずこれらの光源を組合せて使用することもできます(道路照明、表6)。
照明方式
対称照明方式(従来の方式)
従来一般的に用いられている手法です。トンネルの縦方向にほぼ対称な配光の照明器具を用い、車の進行方向に対称に光を配する方式です。基本的には壁側に照明器具を配置して対抗車線側の路肩付近を照射することで、全体として明るさ(照度)のバランスのとれた環境を創出します。
側壁配置形
天井配置形
非対称照明方式
非対称照明とは、照明器具の配光が車両の進行方向(道路の縦方向)に対して非対称なもので、カウンタービーム方式、プロビーム方式があります。
1.カウンタービーム方式
路面の障害物などが認識しやすい照明方式です。比較的交通量が少ないトンネルに向いています。ドライバーに対して、車の進行方向とは逆方向に光を照射するため、路面上の障害物のドライバー側の面に直接光があたりません。これにより障害物と路面との間のコントラストが高くなり、障害物をより認識しやすくなります。
しかも経済的です
カウンタービーム方式では、路面が従来方式と同照度であれば、より障害物を認識しやすくなります。また基本的にドライバーの方向に効率良く光を照射しているため、少ないエネルギーで高い照度を得ることができます。これにより、消費電力等を削減し省エネルギーにも貢献できます。
2.プロビーム方式
トンネル内での先行車両の視認性を高める照明方式です。交通量が比較的多く走行速度も速い都市部のトンネルに適性があります。ドライバーに対して、車の走行方向に光を照射することにより先行車両の背面に強い光があたります。これにより先行車に視認性がより向上するわけですが、特にトンネルに入る時やトンネルを出る時の「先行車が一瞬消える」という現象を改善できます。
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